Chipped Chocolate Cake

ひとりごとの小屋ん中

海に対するトラウマのはなし

 

こんばんは。

路地でございます。

 

今回は、今でも家族の間でネタになるお話です。

 

 

 

 

 

毎年恒例の海

 

私の地元では地区の子供会という集まりがありました。

中学卒業までの子供がいる家庭が加盟しており、毎年お金を出し合って旅行に行ったり、季節のイベントをしたり、宴会したり。。していました。

こういったことは、都会でも普通のことでしょうか?

夏は恒例の日本海へ行き、BBQしながら浜辺で遊んで、泳いで、民宿に泊まってどんちゃん騒ぎ。花火して、肝試しして、、普段、山の合間に住んでいる私達でしたので、この非日常感がとても好きでした。

旅行中は大人も普段のリミッターを外して遊びまくるのです。

 

ある年。

おなじみの海岸へ。私は妹と海辺で遊んでいました。

ある男の子のお父さん(以下Y父)が、目を輝かせて言いました。

「おれの同級生ここにいっからよ!子供だぢばボートさ乗らせでけっと!(俺の同級生がここにいる。子供達をボートに乗せてくれるってよ!)」

子供達は大喜びで押しかけました。

大柄で髪がチリチリで、全体的に黒いおっちゃんが待ち受けていました。サングラスが印象的でした。(以下ボートのおっちゃん)

 

エンジン付きのボートだって!かっけえ!!

 

オレンジや黄色のライフジャケットを身につけながら、あっという間にテンションMAXです。

 

ボートの広さ的には定員6、7人ほど。

一回目の航海は兄やいとこのMちゃんなど、比較的子供達の中で年長組が乗って、しばらくして帰ってきました。

その一回目を年少組は見ていて、その時点でもう早く沖へ繰り出したくてたまらないといった様子でした。

1回目には親も2人ほど乗って行ったので、子供の数は4人くらいでしたが。。

なんせ我一番にとせがむ子供達です。囲まれてわーぎゃー攻め立てられ、ボートのおっちゃんはとうとう言いました。

 

「あ〜もういーさげ乗れ!乗れったげ乗れ!(いいからもう乗れ!乗れるだけ乗れ)」

 

結局、2回目は

私、 妹、 Yくん、 Tくん、 Cちゃん、 Rくん の子供達6人と

Y父、そしてボートのおっちゃん という、8人で乗ることになりました。

 

いよいよ沖へ!

 

なんとも爽快でした。

ボートはものすごい速さで、地平線を目指して走り出します。

人がどんどん遠ざかり、民宿がどんどん小さくなり・・ダイレクトに感じる風の気持ち良さ。潮の香り。四方一面の群青色。白く泡立つ波。

 

海ってこんなに広いのか!(当たり前か!)

 

妹はまだ、状況がよくわかっておらず、終始私にひっついていました。

しかし他の子達は、生まれて初めての船上に興奮し、ギャーギャーと騒ぎまくっていました。

 

私はというと。。

例えるならゲームボーイRPGをしていて、バグが起きて普段行けないマップの場所に降り立ってしまったような気分でした。ある意味、非日常の中にして、更に異質な状況。なんとも言えない恐怖という部分も、感じていたと思います。

ふわふわと夢の中にいるような感覚でしょうか。

それでもスリルが良い役割を果たして、とっても良い気分になっていたのです。

 

 

ーーーその時。

 

エンジンの音が、だんだんと減速していきました。

 

止まるのね。ここでしばらく日光浴でもするのかな。といった感じで景色ばかり見ていた子供達をよそに、大人2人が焦り始めました。

違和感を感じた私は、耳をすませて会話を聞きました。

 

「は?嘘あべ」「連絡取れや」「やべえなこれ」「おめどげすんな」

 

聴こえてくるのは明らかに普段の様子と違う、大人のマジなトーンでした。

 

ここで私は、もはやこのボートが自分の力で進んでおらず、ただ大海原に身を任せ揺られている状態であることに気がついたのです。

 

 

冗談じゃない?

 

ボートが完全に止まり、エンジン音も途絶えました。

小さな船上。会話は隠すことが出来ません。

ボートのおっちゃんは観念したように、それでも子供たちを不安にさせまいとの声色で言いました。

 

「えー・・、このボートは、壊れてしまいました!」

 

まるで冗談のような一言でした。

しかしこのおっちゃん、・・なんか、なんか全然危機感ない。

 

そしてそのボート、床が一部補修されていて、そこから少し海水が漏れ出てきていた記憶があります。

 子供達の中で最年長のTくんとYくんが、その水をかき出していました。と言っても、あまり動かさなければ大丈夫なようでした。

 

その光景もあり、子供達は次第に「え??このボート沈むの??」と思い始めました。

Y父もいつもはおちゃらけ担当なのでしたが、この時ばかりはマジトーンでした。

 

「・・おめらジャケット着ったが。船もう動がねがもしんね。泳ぐ準備しとげ。(お前らジャケット着てるか。船はもう動かないかもしれない。泳ぐ準備をしておけ。)」

 

半笑いだけど覚悟を持った顔で放ったその一言で、子供達は本格的に焦り始めました。

 

 

生還プラン

 

 

どうやら、Y父によるとこのボートは完全に沖で孤立してしまい、浜辺におかしいと気づいてもらえなければ助けはこない状況のようです。

子供達は、幸い皆泳ぎが得意でした。

男子共はほっといて、私と妹以外唯一の女の子であるCちゃんもスイミングスクールに通っており、泳ぎが得意でしたので、大丈夫(というかとりあえず泳げる)だろう。と踏みました。

 

問題は、私と妹です。

  

妹は、、妹は、何としても私が!守らねばならない。

 

その時私は人知れず、固くそう決心しました。

 

私は泳ぎが得意ではありませんでした。

しかしこの状況、どうやっても泳がなければ助からない状況で、真っ先に考えついたことは「妹をどうやって助けるか」でした。

 

ボートが立ち往生している位置からは、黒く突き出た岩が見えました。

人が3人くらいはしがみつけそうです。

妹と私なら、波の上に出た状態で足場として利用出来る。

まずはあの岩山まで、妹を抱えてたどり着けさえすればいい。ライフジャケットは着ているし、手を離さなければ大丈夫。とにかくあそこまでバタ足だ。

そんな計画を、静かに練っていました。

 

 

船酔い

 

そんな折、ボートのおっちゃんが叫びました。

 

「はーい、おめら気持ち悪い人は言えよ!海さ吐いだっていーがらな!」

 

確かに意思をなくしたボートは、波の力で普段とは違う揺れ方をしていました。

容赦ない動き。セーブできずに動かされているような感じ。

その一言で子供達も、思い出したように船酔いを感じてきていたのでした。

 

「何、おめ気持ち悪いながw」

 

船べりに寄りかかっているY父が何かを悟ったらしく、ボートのおっちゃんを茶化しました。

その時。

 

ボートのおっちゃん「うえええ」

 

Y父「うわ!おめえきったねずww」

 

 

ついに、ボートのおっちゃんは身を乗り出し海に向かって吐き出しました。

 

 

『いやお前が吐くんかい!!!!』

 

 

明らかにそこにいた子供達は皆、心の中で突っ込みました。

 

「いやアイツ吐いてっし!」「まじかよ」

 

Tくんが我慢ならずビシッと言い、船上は何とも言えない空気に包まれました。

女子達は、見てはいけない光景を、あまりにもフランクに見てしまったショックで何も言えません。

Y父はクツクツと笑いながら、黒光りしている背中をベチンと叩きました。

 

Y父「おめーが一番気持ちわりーんじゃねーかww」

 

ボートのおっちゃん「わりーわりー」

 

シビアなコントを繰り広げている大人たちをよそに、子供達が一番思ったこと。

 

『ゼッタイ飛び込みたくない・・!!』

 

これにつきました。

だって初対面のおじさんが今まさに吐いた水面へ、飛び込みたいと思いますか??

 

もはや、カオスです。

道を塞がれたような、雷に打たれたような、バグ中のマップ上で更なるバグが発生したような気分になり、私を含む子供達は立ち尽くしました。

ボートは、どんどん沖へ入り込み、海辺はもう細い線にしか見えません

泳ぐにしても、どれだけの距離なんだ。これ・・私には、無理に決まってる。

あの時人生で、一番の絶望を感じました。

 

 

 

救出、生還

 

そんな感じでどのくらい時間が経ったでしょうか。

結局、しばらくして迎えが来てくれたことは憶えています。

Y父が携帯で連絡を取ってくれたんだと思います。

携帯はもっていたけれど、電波が入ったり入らなかったりでなかなか連絡を取れずにいたようです。だから余裕があったらしい。Y父。子供達へは、冗談で泳ぐ準備しとけ、なんて言ったらしい。神経疑うわ!笑

 

さすがに携帯もなかったら、もっともっと辛い記憶になったかもしれません。命すら危うかったかも。

 

牽引されて戻る途中、夢からだんだん醒める感覚で、ぼーっと日が落ちてきた空を見ていました。

 

よかった。これでみんな助かるんだ。妹が、助かってよかった・・。

 

当然、自分にとっては、これ海にまつわる大大大事件なのでした。

 そして初めてのトラブルと死の恐怖を、いっぺんに経験して、笑い話にしている大人たちを少し憎たらしく感じたのでした。

しかし私も、

 

こっちはどんだけ覚悟決めたと思ってるんだ!!!妹を怖がらせやがって!!!

 

そんな思いは日が沈む頃には消え去っていました。

 

 夜は、会食も温泉も、その話題で持ちきりでした。私自身もふわふわと他人事のように笑っていました。それ以来、エンストした上にボートのおっちゃんが吐いた話、として笑い話になっています。

 

 

トラウマになった海

 

今思えば、あの体験こそが非日常だったと思います。

毎年の旅行なんて、全然、日常だと思えてしまう。

 

実はその次の年に家族旅行で沖縄へ行き、グラスボートに乗って沖に出るという体験をしたのです。

 

グラスボートとは、小型船舶の中心が細長くガラス張りになっていて、船員がのぞき込める仕様になっている観光船のことです。

 

つまり、浅瀬から沖までを肉眼で、リアルタイムで観ながら航海できるのですが、

 

海ってある程度浜辺から進むと、いきなりドーーーーーンと海底が見えなくなる瞬間があるんですよね。

 

船の床一枚隔てて、地面から完全に離れているこの広大な空間を、水だけが満たしているという事実。

 

ウミガメを見よう!という企画だったと思うのですが、その光景を見て、事実を知って、ウミガメなんてもういいから帰りたいと思った。ただ、戦慄しました。

その時の私にとって、そこは画面や紙面で見る美しい海ではなく、灰色に濁った底なしの魔境でしかなかったのです。

 

あの、沖でボートが立ち往生した時も、とりあえず泳げば、、なんてプール感覚で思っていたのは真っ赤な勘違いでした。

あの時ボートの下には、想像もできない世界が広がっていたのでした。

 

もちろん海が広いなんてことはとっくに知っていたけれど、あの年齢で、身をもって体験した恐怖は自分の中にトラウマのようにして残っています。

 

あれから綺麗な海もたくさん見てきたけど、海の最初の印象はやっぱり『恐怖』ですね。

 

 

 

さて、今回はこんなお話でした。

お付き合いくださり、ありがとうございます。

 

 

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海の写真なくて、ごめんなさい!

こちら落っこちそうな空の写真です。

今では毎年海に行きたくてソワソワしています笑

 

 

路地.